同窓生紹介 池 愼太郎さん

2012年05月19日(土)


お勤めの施設について教えてください。

僕が勤める大阪府立砂川厚生福祉センターは泉南市にあり、主に知的障がいがある方に対して施設入所支援や短期入所・日中活動支援等を提供しています。総務課や更生課、自立支援課などで構成されています。
その中で僕の所属しているつばさという施設は、障害者自立支援法に基づく障がい者支援施設で、平成21年に開設されました。つばさの利用者さんの中には、地域での生活が困難となるような問題行動がある方もおられます。そのような方々が再び地域生活を送っていただけるように、ご本人や関係機関と話し合って個別支援計画を立てて、その計画に基づいて個々のニーズに沿った支援を提供しています。 また、個々の問題行動に特化した特別支援プログラムを提供し、いかにして問題行動に至らず生活が送れるかを検討しています。

具体的には、どういったお仕事なのでしょうか。

つばさの利用者のみなさんは、センター内の生活棟で寝泊まりし、日中は仕事やプログラムに取り組んだりしています。僕たち生活支援員は、その利用者さんの日々の生活に寄り添いながら支援しています。
例えば、「決まった時間に仕事や作業に取り組む」といった基本的な生活習慣の確立を目指したり、「上手に自分の気持ちを伝える」などコミュニケーションの上達を目指したりなどです。ひとりひとりのペースにあわせて、日々の“出来ること”を見つけて、伸ばしていけるように支援しています。

利用者さんは、どういったお仕事や作業をされるのですか。

所内作業は主に二種類あります。
1つは軽作業で、よく粗品などでもらうタオルの折りたたみや梱包作業をしたり、ほかにはミシンで小銭入れなどの小物を作ったりしています。もう1つは、このセンター内に畑があるのでそこで農耕作業をしています。もちろん畑の作物は収穫しますし、竹林にタケノコをとりにいくこともあります。この辺は野生のアライグマがいるので作物が荒らされて収穫できなかったたこともありましたが。ちなみに先日は野生の猿も出まして、さすがに僕も驚きました。ここは自然が多いので農耕作業で畑に出るのはとても気持ちがいいですよ。
ただ最近僕はデスクワークが多くなり、畑を見に行く機会もずいぶん減ったのですが。仕事中の多くの時間は個別のニーズに特化したプログラムの検討をしたり、利用者さんと個別で話し合いをしたり、ということが多いですね。

今現在福祉のお仕事につかれていますが、いつ頃からこの分野に興味をもたれたのですか。

元々福祉の仕事にすすみたいと思い始めたのは中学3年のころですね。同じクラスに知的障がいを持った男の子がいたんです。その子は普段は支援学級で授業を受けていて、美術や音楽の授業は一緒に受けていました。当時、学級委員長をしていた僕は担任の先生から「少し気にかけてあげてほしい」といわれていたこともあって、一緒にいるうちに友達になったんです。
初めのころは話していても僕の話が伝わっているのかどうかわからないまま何カ月か過ごしていたんですけど、ある日教室の移動の時に「君、なんていう名前なん」と初めて僕に対して質問をしてくれたんです。僕の名前を伝えたらそれをきっかけに僕のことを覚えてくれて、今でも街中であったりすると声をかけてくれます。
その頃に漠然とですが、「こういう人達のことをもっと知りたい」と思ったのがきっかけです。

それで大学へすすまれたんですね。

はい。でも学生時代僕は勉強ができたわけでもないし、サークルやバイトで人に誇れる経験もありませんでした。人の役に立ちたいという漠然とした思いから社会福祉学科に入学したのですが、「それは本当に人のためなのか」「自己満足ではないのか」と自問したり、「人を支援するとはどういうことか」といったことにまで、考えを巡らせるようになりました。
元々物事について考えやすい方ではあったのですが、大学の頃は時間も多かったですし哲学の本なども読んでいて、あらためて「自分とは何なのか」「人とは何なのか」といったところから考えてみたりもしました。また、知ろうとすれば本もあるし経験の豊かな先生たちもいらっしゃったので、自分の考えることに対して答えを求めるような形で調べたり話を聞いたりもしました。
最近利用者さんとのコミュニケーションの難しさについてよく考えるのですが、ふと大学の頃も同じような事を考えていたことを思い出して、少し懐かしく思ったりもします。

学生時代から深く物事を考える習慣がついていたんですね。

そうですね。でもこうして、色々と考える中で僕は他人に対しても少し厳しい目を持っていたこともあったんです。ただ3年になって実習に行く機会があり、そういった考え方もずいぶんと変わりました。いい意味でいい加減になったというか、何に対しても、深く考えていたものを割り切れたというか。
それに、自分が福祉に関わることに対して少し懐疑的な考えも持っていたのですが、実習で人とふれあうことで「やっぱり僕は現場へ行くんだ」と強く思いました。
そこからは積極的に現場へもバイトに行くようになりました。今僕が利用者さんに接する姿勢は、その頃その環境の中で得た価値観に依っているところが大きいと思います。

3年生の実習は池さんにとって大きなターニングポイントになったんですね。
お伺いしていると、利用者さんとのコミュニケーションが大変なようですが。

はい。日々そのことについては考えさせられています。もちろん障がいがあってもなくても人とわかりあうということは難しいんですが、特に障がいがある方はどういう思いを持っているのか、何を望んでいるのか理解をすることが大事です。そして、それを僕たちはきちんとくみ取ることが出来ているのか。
ここの利用者さんは日常会話を出来る方がほとんどなのですが、中には会話の流れでお話を返してくれている方もいたり、わからなくても「わからない」ということが言いにくくなっている人もいます。もしかしたら、利用者さんは今までに人とのコミュニケーションを通して、うまく自分の気持ちが伝えられないと感じて、そういった返事をされるようになったのかもしれません。
僕たちは利用者さんが安心して話が出来るような人であるべきだと思います。もし彼らとのコミュニケーションがうまくなりたっていなければ、僕たちの話す言葉も、本人のために思ってする行動も、ただうわすべりして意味のないものになってしまいます。そうならないためにも、利用者さん本人のことについて考えて取り組むことは、大変ではあるのですが、やりがいを感じるところでもあります。

最後に、今後の夢や目標があったら教えてください。

夢は、すべての人々が地域で安全で安心した生活を送れるような社会づくりに関わること、かな。 大きな事を言ってしまったかもしれませんが、このつばさを利用される方は、法に触れるような社会的な問題があるために、地域で生活しにくくなった方もおられます。僕はそういった問題が起こり、彼らが加害者になることも、また被害者をうむことも見たくないという想いもあって。
ちなみに目標は、目前の利用者の方の福祉の向上に係る僕自身のケースワークの上達です。 こうして並べると夢のわりに目標が小さいかもしれませんが(笑)ひとつひとつの行動が夢の実現につながればと思います。