府大トピックス

文科省の新学術領域研究に採択された「光圧によるナノ物質操作と秩序の創生」

2017年06月08日(木)
 平成28年度の文部科学省・科学研究費助成事業「新学術領域研究(研究領域提案型)」に府大大学院工学研究科 電子・数物系専攻 電子物理工学分野の石原一教授を領域代表者とする課題が採択されました。
 「新学術領域研究(研究領域提案型)」とは、既存の研究分野の枠を超えた新興・融合領域の研究や異分野研究の連携などの意欲的な研究領域で、学術の水準の向上・強化につながる新たな研究領域や革新的・挑戦的な学術研究の発展を促すものです。
 本事業は、成果が出るのに長い年月のかかる基礎科学分野の研究グループを対象とした、今の日本では数少ない助成制度の一つです。採択されたグループそれぞれには5年間にわたって約10億円程度が研究資金として助成されます。
 平成28年度の採択件数は合計21件で、本領域は内、理工系(工学、数物、化学)で採択された7件の1つでした。特に本領域が該当する数物分野での採択は、ノーベル賞で知られるヒッグス粒子を発見した国際チームの日本責任者を代表とするグループと石原代表の「光圧によるナノ物質操作と秩序の創生」の2件のみだった事を見てもその価値が分かると思います。
 このことは旧帝大に負けない優秀な学生と教員を擁し、毎年素晴らしい研究成果を上げてきた府大のポテンシャルを示しており、府大の教員、学生の自信を強め、一層のブランド力の強化に大いにつながるものと確信しております。
 5年はこのような基礎研究にとっては決して長くない歳月だと思いますが、石原教授のこれからの活躍を大いに期待したいと思います。
 以下に、今回採択された「光圧によるナノ物質操作と秩序の創生」の概要を領域代表石原教授のご挨拶文としてご紹介します。
※上記本文は、12月12日に石原教授とお話しさせていただき作成しました。また、下記記事は、平成28年9月21日グランキューブ大阪で行われたキックオフシンポジウムのパンフレットから引用しております。
文責:堀 道明
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「光圧によるナノ物質操作と秩序の創生」の概要
 通常は熱として発現する分子やナノ粒子など極微小物質の力学的運動を、個々に、また直接に操作し、所望の秩序を創生したり、機能的現象を引き起こしたりする技術は、ナノ科学の1つの到達目標です。私たちは、光が物質に及ぼす力、すなわち光圧を用いることによってこれを実現することを考えました。
 光が物質に力を及ぼすことは古くから知られていましたが、レーザーの発明後、Ashkin らが一本のレーザーでミクロンサイズの誘電体球を捕捉、操作できることを示したことによって明確に認識されました。光ピンセットと呼ばれるこの技術は、例えば誘電体球を生体分子などに結びつけることで分子間の力学作用を解明するなどの成功を収めてきました。一方、原子の運動を制御するためにも光圧が用いられ、精細な原子線を狙うことによって原子冷却が実現されています。しかし、ミクロンと原子サイズの間を繋ぐ「ナノ物質」の光圧操作はこれらどちらの技術から見ても困難な課題でした。そのような中、我が国では、光化学、光物性など様々な分野でナノ物質の光操作に対する挑戦が行われてきました。
 本学術領域は、このような挑戦を、分野を超えて結集し、次世代の物質制御技術をめざす新しい学術分野確立へのプロジェクトとして開始されました。光圧を用いて「分子や半導体微粒子などのナノ物質を、その性質ごとに『個別・選択的』に、また『直接』に運動操作(捕捉・輸送・配置・配向)する」技術を実現し、「極微質量の人為的力学操作を通した秩序の創造」に結びつく学理の体系化を行うことが本領域の目的です。
 上記の目標への到達を目に見えるものにするため、本領域では三つの共同研究を掲げました。
 [A] 特定ナノ物質の分離と精密配置、及び大面積化 
 特定の性質を示すナノ物質を選択的に分離、精密配置し、さらにこのような作業をマクロな領域で行えるようにします
[B] 粒子間相互作用の制御と結晶等の階層構造創製
 高濃度溶液における粒子の配向や粒子間の相互作用を光圧により制御し、会合、結晶化等の自己組織化過程を人為的に操る技術を確立します。
[C] 分子の選択的力学操作を通した化学過程の制御
 分子種を選択的により分け、例えば自然には集まらない異種分子を液-液界面などに配列集合させ、化学過程を物理的に制御する技術を確立します。

 光圧によるナノ物質操作と秩序の創生のイメージ

 これらの課題には領域のメンバーが一丸となって取り組みますが、さらに本領域では、これらの共同研究を支える柱として次の4つの計画研究を設けました。
計画研究A01.光圧を識る:光圧の理論と計測・観測技術開発による基礎の確立
 ナノ物質への光圧を精密計測し、理論や運動観測との整合性を確認することによって光圧科学の基礎を確立します。
計画研究A02.光圧を創る:物質自由度を活用した操作の高度
 ナノ物質の電子準位間の遷移などに光を線形・非線形に作用させることにより選択的に捕捉する、押す、引く、回す等を可能にする、物質操作の高度化を目指します。
計画研究A03.光圧を極める:分子操作の極限化と光制御によるマクロ化
 金属ナノ構造での局在電場による光成形などの技術を駆使し、如何に小さなターゲットを、如何に精密に捕捉できるかに挑戦し、また操作のマクロ化にも取り組みます。
計画研究A04.光圧で拓く:多粒子相互作用の選択的制御による構造と現象の創造
 主に高濃度系における微粒子の相互作用を選択的に制御し、結晶化や化学反応などを物理的に制御することで、上記領域共同研究のパイロット研究を推進します。
 
 これらの計画研究を融合・相乗させることにより、共同研究[A]〜[C]における目標へ到達することが可能となります。
 本領域が目標とする学理と技術が実現すれば、次のようなことが可能になると期待されます。
  1. 光との共鳴条件に応じた光圧によるナノ物質の選択的な運動誘起、分離、隔離、空間マッピング等が非接触に行えるようになります。
  2. 高濃度溶液系で、濃縮・配向制御等により粒子間相互作用が制御できれば、結晶化等の相転移や自己組織化を人為操作することによる(階層的)構造作製手法が確立します。
  3. 多種分子が混在する系で、光圧により特定の分子を局所的に拡散制御・濃縮し、濃度勾配や配向を制御することが可能になります。
  このようなことを可能とする学理と技術の総体として、「極微質量の人為的力学操作を通した秩序の創生」が具現化すると期待されます。
 私たちの領域はまだ大きな学会もない新興の学問領域といえますが、様々な異分野から参集し、組織化された研究者が、今後、10年、100年と発展していく新しい学術領域をここにスタートさせるという気概で活動を始めています。この領域が今後、確かな歩みを進めていくためには、若い世代の研究者が近い将来、この領域の中心を担っていくことが必須です。はじめてこの領域を目にされた皆さんも、是非、これを機会に本領域にご興味を持って頂き、一緒に研究に参画して頂ければ幸いです。
 領域代表 石原 一 (大阪府立大学)
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 詳しい情報は、下記web情報をご参照ください。
 領域のホームページ:http://optical-manipulation.jp
 領域のニュースレター:http://optical-manipulation.jp/news/pdf/OpticalManipulationNL01.pdf

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