卒業生便り

この学校に行かなかったら今の私はなかったと思う。塩田千春(美術科5期)

2017年06月15日(木)
 母校での講演はお世話になった先生方の顔が見えていつも以上に緊張しました。私が高校生だった時のこと。学校をサボって怒られたこと。いつも自分の気持ちをうまく伝えられなくて自分が何になりたいのか、何になれるのかさえも分からず先が見えなかった時のこと。ただ絵を描くのが本当に好きで、どんなオシャレをするよりも、画材屋さんに並ぶ絵の具やスケッチブックを買うのが嬉しくて画材代にお金を費やす日々。卒業してから今日に至るまでの作品の話をしながら、本当に作品だけを我武者羅に作り駆け足でやって来たのだと再確認したような気がしました。やはりヴェネチアビエンナーレという世界の舞台で日本代表になれたのは嬉しかったし、制作中も走馬灯のように先生たちのことを思い出しました。ほんの少し寄り添ってもらうことで人生が変わること。私は高校時代を自分が最も好きな絵を描くことで過ごせて本当に良かったと思っています。絵を描くこと、ものを作って人に見てもらい、その心を言葉以外の何かで伝えようとすることは、他の動物にできない人間らしさだと思っています。今こうして自分が作家活動を続けていけているのはこの高校時代に美術の楽しさと苦しさを味わえたからだと思っています。
 この学校に行かなかったら今の私はなかったと思う。私の講演が終わって泣き出す子。それを見守る先生。その光景を見ながら本当にこの高校に行ってよかったと思いました。 
 
経歴
 1972年大阪府生まれ。ベルリン在住。生と死という人間の根源的な問題に向き合い、「生きることとは何か」、「存在とは何か」を探求しつつ大規模なインスタレーションを中心に、立体、写真、映像など多様な手法を用いた作品を制作。 2007年、神奈川県民ホールギャラリーの個展「沈黙から」で芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2015年、 第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館代表として選出される。主な個展に、KAAT神奈川芸術劇場(16年)、スミソニアン博物館アーサー・Mサックラーギャラリー(14年)、高知県立美術館(13年)、丸亀市猪熊弦一郎 現代美術館(12年)、国立国際美術館(08年)など。 シドニービエンナーレ(16年)、釜山ビエンナーレ(14年)、瀬戸内国際芸術展(11年)などの国際展にも多数参加。また、サシャ・ヴァルツ&ゲスツ監督・細川俊夫によるオペラ「松風」をはじめ、リチャード・ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」や「ジークフリード」などの舞台美術も手がける。
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