キャンパスだより

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2022年11月 工学研究科 電子情報系専攻の前田航汰さん(M2)が「令和4年度日本赤外線学会研究発表会」で優秀発表賞を、更に「シンポジウム テラヘルツ科学の最前線Ⅸ」において優秀学生発表賞を受賞しました。

 2022年11月7日~11月8日に静岡大学浜松キャンパスにて、第31回(2022年度)日本赤外線学会研究発表会が開催され、大阪市立大学大学院工学研究科 電子情報系専攻 物質機能工学領域 波動物理工学分野の前田航汰さん(M2)が、
「テラヘルツ波を用いた潤滑油中の気泡含有率の非接触測定」
のテーマで発表を行い、本学会より優秀発表賞に選ばれ賞状と盾が贈られました。前田さんは学部4回生の時に続き2回目の受賞となります。
また、11月17日第9回目となる「シンポジウム テラヘルツ科学の最前線Ⅸ」においても優秀学生発表賞を受賞しました。
 
【研究室の菜嶋茂喜先生(左)と受賞した前田航汰さん(右)】

【テラヘルツ波とは】
そもそもテラヘルツ波とは何か? ご存知の方もいるかと思いますが、一応説明しますと、光と電波の間となる周波数1THz前後の電磁波です。これまで色々な可能性を指摘されながら光でもなく電波でもなく“扱いにくい”として避けられてきたが、近年最も可能性を秘めた「未開の電磁波」として注目を集めています。テラヘルツ波は、電波のような「透過性」とレーザー光線のような「直進性」を兼ね備えた電磁波であり、物質に当てると物質固有のスペクトル(分光)が現れるので、非破壊で不純物検査や将来的にはガン細胞を見分ける病理検査などへの応用も期待されています。
 
【前田さんの研究内容】
前田さんの研究は、潤滑油中の気泡をテラヘルツ波で測定しようとするもので、気泡含有率と潤滑油中を透過するTHz波の時間遅延に直線的相関関係があることに注目したものである。理論的な検証を踏まえた上で、実際に気泡を含む潤滑油で実験し、十分に気泡を拡散した潤滑油が時間と共に脱気していく様子をテラヘルツ波の位相検出技術で時間シフトとして測定することで、正確に気泡含有率を検知できることを実証しました。この研究で、「テラヘルツ波が実用段階に入った」という高い評価を得て今回の受賞となりました。
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【本テーマがスタートしたきっかけ】
 この研究は、2018年に国内9社の自動車メーカーと、2社の変速機メーカーが共同研究組織TRAMI(トラミ)を設立し、産官学による変速機や減速機(トランスミッション)の要素技術の基礎研究体制をスタートしたことから始まる。近年トランスミッションは高性能化が進んでおり、エンジンよりも幅広い開発が必要で、個々の会社で対応していては世界的な競争力を失うという危機感からこの研究組織が産まれました。
 この研究機関に、市大OBの坂野渓帥(バンノ ケイスイ)さんが参加していました。坂野さんは、TRAMIの研究に光技術を応用できないかと考え、手掛かりを求めて母校を訪ねたところ廊下のポスターのテラヘルツ波という言葉が目に留まり、「これなら出来るのでは」と思い、菜嶋先生に相談して2021年共同研究をスタートしたとのことです。そこに大学院生として入学してきた前田さんが、このテーマを誰かやらないかとの先生の呼びかけに真っ先に手を挙げたそうです。
 
◆前田航汰さんの略歴
寝屋川高校卒業後、2017年大阪市立大学工学部入学。
2021年同大学大学院へ入学し、現在修士課程2回生。
    自分のアイデアを形に出来る研究がしたいということで、菜嶋先生の波動物理研究室へ入った。
卒業後は、ソニーセミコンダクタソリューションズ(株)へ就職の予定。
 
◆坂野渓帥(バンノ ケイスイ)さん
1999年3月       市大大学院修了(工学研究科応用物理学専攻光物性工学研究室)
1999年4月〜2008年12月キヤノン(株)で半導体露光装置(光学素子)の研究開発に従事
2009年1月〜      (株)本田技術研究所で動力伝達機構の研究開発に従事
※2019年〜        TRAMIのメンバーとして産学連携活動を開始
<坂野さんの談話 *研究室訪問の経緯>
 TRAMIでは変速機構を対象としているため、機械分野の研究室とのコラボレーションがメインでした。これまで関わりの無かった研究分野とのコラボレーションすることで新しい価値が創出できるのではないかと考え、まず自分が学んだ応用物理を取扱う研究室に相談を持ち掛けたのがきっかけです。
 当初は赤外線分光、ハイパーラマン散乱の応用を考えていたのですが、散乱影響が大きすぎるとの見解から、大学訪問時の会議では委託研究を諦めることとなりました。ですが、その帰り道に、廊下に貼っていたポスターの「テラヘルツ波」というキーワードが目に入ったことで、「この周波数領域ならできるのではないか」と思い、菜嶋先生の研究室を訪問したことで共同研究が始まりました。
 今回を振り返って思ったのですが、廊下に研究紹介のポスターが掲示されてなかったら、このような研究も無かったと思います。「廊下の研究紹介ポスターが今回のコラボレーションに発展した」という今回の出来事は、研究開発におけるアイデア発見の一つのヒントにもなるかと思います。
 
以上

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