母校だより

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「定年退職にあたって」 岡野 友信(平成22年着任)

 私が立命館大学薬学部に着任したのは2010年4月でした。当時薬学部の1期生はまだ3回生で、実務家教員としての私の役目は、彼らに実務前実習を受けさせて、実務実習に行くための必須のライセンスであるCBT(知識を評価する客観的試験)やOSCE(技能・態度を評価する客観的試験)に合格してもらうということでした。そして実務実習をさせるための病院や薬局に彼らを行かせなければなりません。しかし実務前実習については誰がどこで何を教えるのかが何も決まっておりませんでしたし、また彼らの実習先の確保さえできておりませんでした。まず臨床経験のあるベテランの薬剤師を探してきて嘱託講師として採用し、実習を教えてもらうことにしました。「餅は餅屋」とはよく言ったもので、これはかなりの効果を上げることになりました。以前、臨床とは全く関係のない先生が一夜漬けで覚えた調剤を学生に教えているといった話を聞いたことがありますが、そのようなことはこれから実臨床で実習する学生あるいは就職する学生にとってあまり勧められる話ではないと思います。学生に不利益をもたらすだけでなく、その道で業績を上げておられる先生方にとっても、このような煩わしいことに時間を取られていると「科学の進歩が1日遅れる」と私は考えます。さらに嘱託講師には、OSCEの評価者や、実習先への訪問指導もしてもらうこととしました。嘱託講師にとっても自分達の教えたことが、学生をちゃんとOSCEに合格させるのに役立っているのか、あるいは臨床現場で通用するのかの確認にもなるだけではなく、実務家教員以外の先生方の施設訪問の負担を著しく軽減し(学生1人につき3回訪問)、まさに一石三鳥でありました。またサイエンスコアに南棟を増築してもらうことにより、細やかな実務前実習が可能となり、OSCEの際の動線確保も可能となりました。
 薬剤師国家試験合格率についての課題はたくさん残されていますが最悪というほどでもありません。しかし合格率が突出してよくないと、授業料の高い当薬学部は、優秀な学生を他大学に取られてしまい、そうするとまた合格率が下がるという悪循環になる可能性があります。卒業後の進路ですが、病院や企業に知り合いがたくさんいるので、学生を就職させるのには自信がありました。薬学部創設時は、薬学出身の先生が少なかったこともあって多くの学生が進路相談で私のところに来ました。1期生から6期生までで約80人分の病院採用の推薦状を書きました。もちろん一人につき1通ではなく複数の推薦状を書いてあげた学生もおりました。今もほとんどの卒業生の就職先を把握しており、転職した学生や結婚した学生についてもできるだけ記録を塗り替えるようにしております。 
 無事定年を迎えることができたのは先生方や事務の方々の温かいご支援があったからであると感謝しております。今年4月からは特任教授として立命館大学で仕事を続けさせていただけることになりました。教授会・研究科会議には出なくてよくなりましたが、授業が前期・後期1科目ずつ、実習は前期2日、後期3日そして学生の実習先への訪問指導19人と現役の時とあまり変わらず、また実務実習委員会、OSCE委員会やキャリアと行う就職に関する会議にもオブザーバーとして参加させていただいております。実習のマニュアルに記載されている緊急連絡先が、今年度も私のメールアドレスになっているため、4月以降に起こった実習中のトラブルにも前年度同様毎回対応しております。嘱託講師の任用期間は5年ですので、新しい嘱託講師を見つけてくるのも私の仕事になっております。これからも立命館大学のためにお役に立てるならなんでも喜んでやりたいと思っておりますが、案外皆様の邪魔をしているだけかもしれません。そんなとき親切な忠告をして下さる方がおられたらその方に感謝し、素直に引退いたしますのでよろしくお願いいたします。