2020年

2020年

おうち時間で書を楽しむ

1992年卒 松本博子
 
 皆様お元気でいらっしゃいますか。新型コロナウイルス感染症の流行により、自宅で過ごす時間が長くなりました。今夏まで在宅勤務が続き通勤時間が不要になったことと、休日も外出を控えたので、趣味の書の師範認定試験に挑戦しました。郵便で師匠の添削指導を受けながら、古典の臨書や提出する課題にじっくり取り組んだ結果、秋に合格の知らせをいただきました。
 書道は幼稚園から高校まで13年間習字教室に通ったものの、熊大に入ってからは他に楽しいことも多くて中断していました。40代になり、子どもの頃同じ教室に通っていた友人から誘われたのを契機に、再び筆を執りました。
 日本の書は現在、漢字▽かな▽大字書(大きな紙に大きな字)▽近代詩文書(歌詞や俳句など。漢字かな混じり)▽前衛(抽象絵画のような書)▽篆刻・刻字(雅印、看板、彫刻のような立体作品など)の分野があります。今夏は感染防止のため開催できませんでしたが、全国10会場で開かれる「毎日書道展」では各分野のトップクラスの現代書を見ていただけます。
 私が取り組んでいる分野は漢字です。古典の漢詩や、禅語から選んだ言葉を草書で書いています。子どもの頃の習字は半紙にきれいな文字を等間隔に書いていましたが、大人になって取り組んでいる作品づくりはアートに近いものです。
 垂直の中心軸はそのままで、墨の潤渇、文字の形や大小、左右上下のバランスに変化をつけてデフォルメし、文字を立体的に見せます。書き上げて雅印を押すと、白と黒の世界が口紅を差したように華やぎます。 
 
 師匠は「余白の美」ということを言われます。鑑賞のポイントとしては墨線の軌跡の美しさに加え、余白に目がとまるようになると良いそうです。心に響く言葉や漢詩を書いて、掛け軸にしたり、額におさめたりして、季節に合わせて楽しみます。外国の方のように、洋室でも構わずに壁に掛け軸を掛けています。
 いつも書作品にできる漢詩や言葉を探しているので、テレビやネットで中国語圏の歴史ドラマを見ていても、室内を飾る書や、木簡、布に書かれた文字に引きつけられます。台詞に出てきた漢詩の一部をスマホで検索して原典を確かめ、ウエブ辞書で意味を調べるのも簡単な時代になりました。新聞小説に出てきた漢詩が、実在するのかを調べて作品にしたこともあります。
 今年50歳になりましたが師匠は「まだ95歳までは書ける」と言われます。奥深い書の世界も、元気ならあと45年あると思えば、前に進む勇気も湧いてきます。外出自粛により、家で楽しめる書の魅力を再発見できました。